花火が上がったときに「たまや~」って掛け声がかかることがあります。花火の玉が上がるから「玉や!」と言っているわけではないことは、たぶん多くの人が知っていることでしょう。
「たまや」は「玉屋」のこと。19世紀に江戸に登場した花火業者の屋号です。美しい花火を打ち上げる業者であり、大人気だったようです。その玉屋はもともとそれより以前から存在していた花火業者の老舗から暖簾分けされた花火師が興したものでした。もともとの老舗というのが「鍵屋」です。
玉屋と鍵屋は、現在の隅田川の、両国橋を挟んだ上流と下流で花火を打ち上げていました
この共演のときにかかった掛け声こそが「たまや~」と「かぎや~」ということなのです。

それではなぜ玉屋の掛け声のほうが有名なのでしょう。これは単純に、当時から人気が高かったことが要因とされています。和歌にも詠まれていますが、つまり鍵屋から独立した玉屋のほうが、当時人気があったということです、おそらく当時の鍵屋としては面白くなかったかもしれませんね。
もっともその玉屋は長くは続きません。花火の打ち上げで大きな火事を起こしてしまい、結果として厳しい処分を受け、わずか一代で家名が断絶してしまったのです。
しかし、そのことが玉屋の人気と名前を後世まで残す結果となったのかもしれません。江戸の文化からみれば、まさに花火のごとく一代限りでありながら絶大な人気を誇り、一瞬にして消えていった花火業者は、それこそ伝説のように語り継がれたことが容易に想像がつくのです。
「鍵屋と言わない、情がない」というような意味の歌が残っているということは、玉屋の人気があったことの証左であり、「情がない=錠がない」という掛け言葉でもあります。

現代でも花火の打ち上げ業者として続いている鍵屋もまた、花火の歴史を彩る花火師たちであることは間違いありません。今度の花火大会では「鍵屋」の掛け声を叫ばれてはいかがでしょうか。